白黒写真のカラー化」  伏見医報 2017年8月号 栗原 眞純

 カラー写真が撮れなかった頃の白黒写真を簡単にカラー化出来ないかと以前から考えていました。ところが将棋や囲碁で人間に勝てるDeep LearningなどというAI(人工知能)が出て来て事情は一変しました。

 昨年から、そのAIを使って白黒写真をカラー化する試みが盛んになりました。「白黒写真のカラー化」で検索すると色々のやり方が検索されます。

 まだ実験段階のためなのか、あるいは、より多数の画像を収集するためなのか分かりませんが、ソフト使用は無料のものが多いです。早速それを使って半世紀以上前に撮影した白黒写真のカラー化を試して見ました。

 日本でカラー写真が普及したのは昭和36・7年頃です。あまりに古すぎる明治以前の写真などは、既に大メディアが取り上げて発表しているので、時期を昭和10年代から昭和36年頃までに限定し、私のアルバムの中から数枚を選び、少し解説を加えながら古い順に並べて見ました。左が元の白黒写真、右がカラー化した写真です。

@昭和9年 女性が和装から洋装に移り始めた頃、資生堂は毎年「ミス・シセイドウ」を選んで全国を廻らせ、最新の美容法を実演しながら一般女性を啓蒙しました。当時、父(後列左から三番目)は資生堂の広報担当だったのか、この写真は三条通り御幸町角にあった大毎(毎日新聞)京都支局へ彼女たち(第一回ミス・シセイドウ)をお連れした時のものです。今も、京大時計台、京都市役所、同志社栄光館などの建築で有名な武田五一作のこのビルは1928ビルと呼ばれ使用されています。
 そして、現在も彼女の後輩たちは、BC(Beauty Consultant)と名を変えて世界90地域で活躍しています。BCへの道はなかなかの狭き門で、15名の募集に、1300名の応募者が出ることもあったそうです。
A昭和15年 当時、奈良電(現近鉄)の桃山御陵前駅近くで私が生まれ住んでいた頃、近くの御香宮で撮影した家族写真です。この場所が現在の御香宮に残って居るかどうかを確かめに行きましたが、同じ風景が見付からなかったので宮司さんに尋ねたところ、その後の水害で多くが流され、復元出来なかったのだそうです。一番小さいのが4歳の私です。撮影者は我が家のお手伝いさんだったようです。
B昭和26年 中学時代、未だプラモデルの存在しなかった時代に、1/50木製ソリッドモデル作りに挑戦しました。10cmX10cmX25cm位の朴の角材を入手し、1ヶ月間陰干しにして、設計図通りに胴体、翼、プロペラなどを切り出し、彫刻刀や紙やすりで成形。車輪や排気管をブリキ、ハリガネ、ケシゴムなどで作り、それらを接着しながら組み立てます。ついで砥の粉で木目を無くし、ラッカー塗装と乾燥を5・6回繰り返し、半年位で完成。ラバウル基地を想定して撮影場所を選びました。下段は、作成中の作業用デスクの状態です。プロペラが4枚あるので別作品と分かります。多分「紫電改」でした。
C昭和29年 鴨沂高校2年生の夏、山岳部主催の立山(3,015m)登山に同行しました。途中山の天候の激変を経験したり美しい風景をたくさん目にしましたがその山々が何という名なのか、眺めているのはどの方角なのかなど全く覚えていません。
D昭和30年 高校3年生の時の写真です。有志で北山を散策しました。今出川通りから東を見て大文字山の向こう側に聳えるのが北山です。京都市内にこんなに広大な山があることに驚きました。地図を見ると大体標高400m足らずです。
E昭和33年 京大医学部には医学科と薬学科があり、両科とも教養課程の1年目を宇治分校で過ごしました。その時の文化祭での演劇に医学科と薬学科が共演した際の同窓生です。宇治分校の雰囲気も出ています。
 「肖像権」が気になったのですが男性は友人でもあり快くOKしてくれました。女性の方は残念ながら12年前に亡くなられたと知ってショックでした。住所や電話は分かりませんでした。もしもどこかでご家族の誰かがこの雑誌をご覧になられましたらお許し下さい。ご希望でしたらプリントして送らせていただきます。
F昭和34年 東山ドライブウェイが開通、今は無料ですが当初は有料道路でした。写真は東山山頂公園にある将軍塚展望台です。ここから京都市街を見渡す夜景は特に有名です。
G昭和35年 みんながやってきた生理学実習風景です。犠牲になる動物たちを憐れに思ったものです。
H昭和36年 級友と楽団ゲロイシュ結成、京大医学部構内での練習風景です。後方に見えるのは、今は無き衛生・公衆衛生学教室。現在この地には、医学部創立100周年を記念して平成2年に建てられた「芝蘭会館」があります。
終わりに、

 色情報を持たないということでは、普通の白黒写真と同じ条件であるエコー写真やX線写真もカラー化出来るのではないかと思って試して見ました。それなりに色はつくのですが、白黒画像で見るよりも、臓器鑑別や悪性/良性鑑別などに優れているというほどではありませんでした。多分、さすがのDeep Learningもまだそこまでは学習して(させて)いないということなのでしょう。

 X線画像診断やエコー画像診断の名医は世界中に数多く居られます。色情報を持たない画像をDeep Learningを使ってカラー化するには、それら多数の画像診断の特技を持つ医師が臓器別、悪性度別などに勝手に好みの色づけをして無数のBIG DATAを作成し、Deep Learningに提供してやればよいのです。各臓器にどのような色づけをするか、悪性度をどのように色で区別するかなどは、それぞれのDATA作成者の好みで良いのです。そのような無数のDATAを読み込み深層学習を行うことによって、モノクロ画像よりもはるかに分かり易いX線画像やエコー画像が出来上がるのではないかと考えて居ます。

  AIの進歩は留まることを知りません。私達零細医院が使うエコーやX線画像もカラー化され、より使い易くなる日が案外近いのではないかと期待しています。  色情報を持つ皮膚疾患をはじめ各種カテーテルや内視鏡診断では、既にAI+GPU(超高速画像処理チップ)により、一般的な人間の診断能力を超えるAI診断がなされているとも聞きます。CTやMRIによる3D画像の疑似カラー化も進んでいます。

 一介の老医の頭をある日突然よぎった、つまらぬ想像をはるかに超える現実が実臨床の場では既に日常的に使われているのかも知れないなどと思いつつ稿を終えます。
随筆集目次へ